#Me Tooって知っていますか?『キャッチ・アンド・キル』が教えてくれる勇気

読書


ジャニーズ問題が、表になるだいぶ前、ハリウッドの大物プロデューサーによるレイプ犯罪の調査報道をした ローナン・ファロー。

どうしてこの本を読みたいと思ったのかというと、それは、著者のローナン・ファローに興味があったからです。

#MeToo運動も気になっていたけれど それよりも好きな映画監督のウディ・アレンと女優ミア・ファロー(「カイロの紫のバラ」のウクレレを弾くシーンがめっちゃ、可愛くて好き)の子どもって、どんなひとなのかしら、というミーハー心の方が勝っていました。

500ページ弱の読み応えのある本ですが、翻訳者の関 美和さんがおっしゃる通り、サスペンス・ドキュメンタリーでもあり、 面白くて一気読みしてしまいました。

#Me Too運動とワインスタイン

2017年にアメリカで始まり、世界中に広まった#Me Too運動は、性暴力とハラスメントの被害をハッシュタグ「#Me Too」をつけて SNS投稿するキャンペーンで多くの人々が沈黙を破る事に繋がったと言われています。

そのきっかけが、2017年10月5日に ニューヨークタイムズ誌により報道された、ハリウッドの大物プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによる悪質な性暴力疑惑でした。

その5日後にニューヨーカー誌に さらに踏み込んだ内容の記事が報道されると、実名で被害を語り、加害者を追求する女性達が日ごとに増えていき、エンターテインメント業界、さらにはそれを超えて拡がっていったのです。

この本の著者、ローナン・ファローは、ニューヨーカー誌の記事を担当したジャーナリストで、翌年2018年に ニューヨークタイムズ誌の告発記事を担当した2人とともに、ピュリツァー賞を共同受賞しました。

その後、記事掲載に至るまでの過程と取材の困難などを記した回顧録がこの「キャッチ アンド キル」です。


「ローナン・ファローが7歳の時、義姉のディランが父親のウディ・アレンを性的虐待で訴えたけれど、それについては、彼は、口を閉ざして、姉の味方にならなかった。」

そんな負い目を感じていたファローが、ジャーナリズムの世界に入り、権力者による性的虐待を調査報道しようとする中で、成長していく物語が根底にあって、とても感動的でした。

なぜ、ハリウッドで神様と言われた映画プロデューサーのワインスタインが、長年にわたって女性たちを性的に搾取し続けることが出来たのか?
示談金と引き換えに被害者に秘密保持契約を結ばせ、損害賠償を求めると脅かしていたから。

それには、世界的なスパイ組織が暗躍していて、盗聴、尾行はもちろん、汚点を探し出してそれをネタに脅迫したり、あることないこと、メディアに暴露したりして、告発女性たちを繰り返し貶めていたり、ワインスタイン事件を追いかけたジャーナリストたちも監視され、身の危険を感じながら調査を続けていたという、まるで映画のような本当の話。

また、この本で一番ページを割かれていたのは、ローナン・ファローの取材活動に、会社の上層部から理不尽に何度もストップがかかり、彼が勤務し、信頼していた、テレビ局のNBCで報道できずにいたところ。

ファローの記事が、どんな経緯でやっと外に出たのか、その攻防がリアルで、夢中で読んでしまいました。

「キャッチ&キル」・・・「公になる前に 捕らえ、抹殺する」という意味で、被害者の弱みや過去の人間関係を引き合いにされ、被害を警察やマスコミに訴えても泣き寝入りせざるを得ない状態に追い込まれ、さらには、キャリアを台無しにされて、示談金と引き換えに この件について他言しないと契約させられたりした女性達。

そして取材していたジャーナリストたちも、ファローも監視され、命がけだったそうで その勇気と情熱に圧倒されました。



私は、この本を読んで、スキャンダルを捕らえて抹殺することが、当たり前に行われていた(る?)世界も いずれ山が動くときが来て、明るみになる、社会は変化していると感じることが出来ました。

調査報道は 慎重な検証や裏付けが必要

ワインスタインの被害者の女性たちを紹介して貰い、話をして貰うだけでも大変だと思いますが、報道する前には、その検証や裏付けが必要なのだと、お恥ずかしいことに この本で知りました。

傷つけられ、脅され、人生を台無しにされてしまった女性たちに、ファローは、寄り添い、何度も説得して時間を掛けて話を聴き、上司に理不尽にも調査中止を言い渡されても、それをかわしながら調査を続けます。

それだけでも膨大な時間と苦労があり、内容が内容だけに、難しいと想像できますが、調査報道は、その後、事実確認担当者が、徹底的に裏を取っているそうです。

20年以上も、公然の秘密のようになっていたワインスタインの罪が、なかなか、外にでなかった理由が、わかってきますが、「山が動く」時が来るんですね。

裏を取るにしても、社会全体が成熟しないとできない、山はなかなか動かないと思いました。

ファロー一人では、出来ない仕事だし、協力者がいるということだけでも弱い、もっとよい社会にしたいという沢山の人の情熱が、この仕事を成功させたのだと思いました。

恋人のジョナサン

ところで ファローの恋人は、ジョナサンという男性です。

その関係がとても素敵なんです。

ファローが、タクシーの中からジョナサンに電話で弱音を吐くシーンで、ジョナサンは「帰ったら、ゆっくり聞くから。それより、タクシーの運転手にチップをはずむんだよ」と励まします。

ファローも謝辞で「もうジョナサンにはこの本を捧げると書いたし、いたるところに彼の話は出てくる。これ以上目立たなくても良いんじゃない?」と語りかけます。

そんなところで 彼の中にお父さんのウディ・アレンを感じます。

まとめ・・・無視をしない勇気を持つこと

被害者の女性たちは、キャリアを絶たれたり、PTSDに苦しんだり、二次被害や権力者の脅迫に絶望しながらも、今、声を上げないと次の被害者が生まれてしまう、それは避けたいと考えたそうです。

こんなことが我が身に、あるいは、家族や友達に起こったら、悲しくてつらくて生きていけないような気持ちになるけれど、それでも人生は続いていく、生き抜かないといけないんだと改めて思いました。

そして、そのような被害にあったり、目撃したとき、聞いたとき、絶対に無視しないことが、人間として生きるときに大切なことだと改めて思いました。

2022年4月の発売で1年前の本ですが、関美和さんの翻訳と後書きも素敵です。

沢山の人々の仕事と熱意の結晶の本だと思いました。

ぜひ手に取ってみて下さい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました